ロスジェネのつぶやき

就職氷河期世代として、近年の就職難について思うところがある。
日本経団連が大学新卒者の就活時期の見直しを企業に要請すると発表している。これで昨今の新卒に向けた就職問題の解決になるかといえば、正直、全くそう思わないし、誰もそんなこと期待していないだろう。
勿論、これで、「学業に専念してもらう」という要望には一部答えられるかもしれない。しかし、そもそもこのようなことが起きてしまっているのは、背景に日本の経済事情、雇用事情があるためで、その部分が改善しない限り、そんな就職時期だけをずらしただけでは何も変わらないどころか、更にそのひずみがどこかに出てしまうことも考えられる。
私が就職活動をしていた時も「超就職氷河期」などと言われていたが、その氷河期の初期であったために学生も何が起きているのか把握も出来ず、戸惑うばかりで、とりあえず数多くの企業に体当たりしていくしかなかったように思う。だが、今は、その氷河期就職に対する「ノウハウ本」然り、キャリアカウンセリングの存在然り、学校の対応然りと、就職難を乗り切るための「知識」や「情報」だけは豊富に揃っている感がある。だからこそ、それらの知識を使ってでも上手くいかない現状が学生たちを八方塞、がんじがらめにしてやしないかと心配だ。そんな状況だから、行きたい会社ではなくてもとりあえず内定を取っておきたいという心理が働き、早期行動に出るのは至極当然だろうし、これは誰にも止められない。また、いまはインターンシップという制度があり、インターンシップ経験するほとんどの学生が3年次にすることを考えると、就活時期を見直したところで、実質は今と何も変わりはしなそうだ。
しかし、そんな状況を十二分に分かっていつつも、やっぱり学生には学生時代にしか出来ない事を是非思う存分やってもらいたいと心から思う。結局、仕事をしていく上で大切なのは、その人が持っている「人間力」だと私は思う。人間力をつけるには、心や頭が柔軟なうちに海外に行って新しいものに触れてみるとか、沢山の色んな種類の本を読むだとか、スポーツや趣味に没頭するとか、自転車で日本を縦断してみるとか、色んなアルバイトを経験するとか、バカなことやってみるとか、そして、勿論、勉強を思いっきりするとか、時間を気にせずその時にしかできない事をするべきだと一社会人として反省の意も込めて思う。そういった経験は必ずその人間の幅や深みを作っていくと確信している。とはいえ、こんな不安な状況下、それどころではない、とりあえず内定!というのが本音だろう。新卒の時点で失敗したら、なかなか復活するチャンスを与えられづらい現状もある。私の周りでも、当時、本当に優秀だった友人が結局正規で就職できず、いまだに非正規社員として働いている現実もある。ならばいっそのこと新卒一括採用をやめて、もっといつでも就職できるようにしていこう、という考えがあろう。しかし、現実的に企業側が、そして、中にいる物凄い数の既得権益を持った人たちが変わってくれない限り難しいかもしれない。
そもそも就職活動は、“企業と人材”のマッチングと言われているが、本当に相性の良い企業なんて見つける事ができるのだろうか?特に、学生が好んで希望している大企業などは、配属される部署によって当然仕事も大きく変われば、部署ごとにカルチャーさえ違うことだってあり得る。実際入って働いたこともない企業のカルチャーやその企業との相性を事前に知ることができるのかは非常に疑問だ。だから、その企業が自分に合っていそうだからなどという理由で企業を選ぶのは危険なような気がするし、企業と人材のマッチングは実際難しい。これまで日本はとりあえず優秀とされる人材を採用し、一部の技術者のような専門職の人以外は、ジェネラリストとして育成してきたけれど、今後、就職活動は、“職業と人材”のマッチングにしてもいいかと思う。これならば、事前に想像しているものと現実の間にそんなに大きなギャップは生まれないだろうし、一つの会社が駄目でも、他にも同じ職業で他の会社を当たればよい。更には就職後もそのスペシャリティを活かして転職もしやすくなるだろうし、労働市場の流動化も促すだろう。
無論、入社時点でその人材の強みを把握する事が出来るのかという疑問や、色々な分野を見てチャレンジしていく中で見つけられる得意分野もあるという指摘もある。ただ、一つの方法として、早い段階からスペシャリストを育てるというやり方も検討に値するのではないだろうか。
最後に人事採用の方に一言。まさかこんな人事採用の方はいないだろうと信じているのだが、いくら買い手市場だからと言って、学生たちに必要以上のプレッシャーをかけるような事をしている方がもしもいらっしゃるとしたならば、是非止めた方がいいと思う。勿論、多くの企業が、学生たちに対して真摯に、誠実に向き合っていることも知っている。だが、やはり学生の人たちに聞くと、理不尽な事を言われたとか、その会社を疑うような発言があったという声も聞かれる。
私も十年以上も前だが、やはり同じような思いをした。就職氷河期だからこそ、沢山の企業を相対的に見、そして、それぞれの企業の人事担当の方たちと接触している学生だからこそ、そういう企業は良く覚えているものである。かくいう私も、全て就職活動ノートに言われた事など詳細に記していて、今もそのノートは保存してある。10数年経った今思えば、あまりにも意地悪な事を言った会社だとか、セクハラまがいの事をしてきた会社などは、既に現在消えてしまっていたり、吸収統合されてしまっていたり、大きな不祥事を起こして勢いを失っていたりしている。勿論、この10数年は激動の月日でもあった。だから、別に意地の悪い人事がいたからその会社がどうにかなってしまったというわけではないだろう。しかし、何をかいわんや、である。どちらにしても、採用せずに落としてしまった学生も将来顧客や取引先になる可能性が大きいのだから、あえて変な印象を与えるような事は絶対に避けるべきだと経験から思う。そんな昔の事をいまだに忘れていない私のような人もいるのだから。
当たり前だが、内定がゴールではない。そこから自分のこれまでの学生生活をはるかに超える長い長い社会人生活がスタートするのだ。だからこそ、ファーストキャリアは慎重に選ぶのは重要なことだし、是非頑張ってほしいと祈るばかりだ。しかし同時に、既に社会に出ている我々は努力と情熱次第でやり直しが必ずできる社会を作っていかなければいけない。と、ロスジェネの一人として思う。