人口問題を考える(その1)

2011年がスタートしてから半月あまりが経った。今年は明るさを指摘する声もちらほら聞かれ始めているものの、まだ確信がもてずに戸惑っている、そんな空気も漂う。
それにしても、2010年を振り返れば、日本は元気がないだの、ゆでガエルだの、Japan PassingだのNothingだの、閉塞感極まる言葉が多く聞かれた。それらに対しての危機感がないわけではないのだが、何も行動に移せておらず、それが益々焦燥感をあおっているという構図も見える。そう感じているのは国民だけではない。海外も解決策を見いだせない、否、見出すことさえ放棄したような日本をじりじりしたような想いで見つめている。英エコノミスト誌の東京支局長に、海外メディアがどのように日本を見ているのか取材したのだが、国・企業・個人、どれを見てもリスク回避しすぎている事が、閉塞感を生みだしているのではないかとのこと。また支局長によると、デフレ、逼迫する国家財政、競争力低下など日本には数々の課題があるが、最も深刻なのは「少子高齢化」という人口問題だという。これが全ての課題の大本にあり、日本経済の再活性化の障害になっているというのだ。この意見はベストセラーになった『デフレの正体』の、要約するに「生産年齢人口の減少と高齢者の激増が問題」という指摘と一致するところだ。
では、この全ての根源たる少子高齢化、つまりは人口問題について、諸課題・問題の中で優先的に真剣な議論がなされているか、といえば、それは疑問だ。
とられるべき解決方法は、
・移民を受け入れ
・出生率を上げる
などがあると思うのだが、移民受け入れに関しては、The NY Timesの年初の記事、”Japan Keeps a High Wall for Foreign Labor” にもあるように、日本の移民アレルギーがこの場に及んでいまだ存在することが指摘されている。移民に関して思うのは、(移民の問題だけではないが)日本をどんな国にしたいのかという大きなビジョンなき下で、移民の定義にしても、移民の受け入れの方向性にしても曖昧なまま議論されているということが、結果、ただ単純に「変化」することを嫌うが故の移民反対という意見につながっているように思う。
移民受け入れと言っても様々だ。例えば、移民大国などと言われるアメリカは移民の雇用の多くが低賃金労働に集中しているが、一方、シンガポールは、高度な技術やマネジメント能力を持った人材を積極的に受け入れる移民推奨政策を推進している。どちらの政策にしても、自分のポジションを奪われるかもしれない層にとっては受け入れがたい政策かもしれないが、移民先進国としてそれぞれ学ぶところは多い。
勿論、色々な層の人材が日本に入ってくる事が必要だと思う。外国の方だけに限らず、日本人同士でも、異質なものを排除しようという力が発生しやすい日本の環境の中では、あえて多様な人、意見を取り入れることで経済成長や技術の革新が起きやすくなるのではないだろうか。単一民族で外からの影響を受けにくい環境でずっと来た日本/日本人にとって、ダイバーシティを受け入れることは新たな可能性を生み出す重要な起爆剤になるだろう。
ところで、色々な人と話をしていて思うのだが、今のところ、移民=先の事例での前者(低賃金労働者)のような考え方が一般的なようにも思う。というのも、以前、日本を代表する識者の方とお話していた時に、移民の話を後者(シンガポールのような高度能力人材の受け入れ)のつもりで話していたら、どうも話がかみ合わない。どうやら、識者の方は前者を前提に話しているようなのだ。いくら軌道を修正しようにも、その前提条件を変えずにお話をされていたので、このような著名な方の中では、移民=前者のようなイメージがあるのかな、と思った事があった。
私自身は日本が本当に「ゆでガエル」状態になっているのならば、特に、いわゆるエリート層のような人材に日本に来て頂いて競争を促すことが、日本経済活性化へつながると思っている。しかし、よく言われているように、なかなかこういった層の人たちが日本に来るインセンティブが働かない。他国に比べて賃金が安いなどが理由の一つに挙げられる。以前、日本の最高峰の教育を現在受けている留学生に話を聞いたのだが、日本が好きだし、ここで暮らしたいとは思うが、やはり日本企業には就職したくないという。日本企業における雇用慣行(年功序列や、評価システムの不透明さ)がキャリアプランを立てにくいからだという。だから、日本にある外資系で働くのが彼らにとってのベストだと言っていた。勿論、こういった人材たちを納得させるような条件を提示し、上手く活用している企業もある。しかし、全体でみれば日本がエリート層から魅力的な存在として映っているかというと疑問だ。また、エリート層といえば、以前、ミャンマーからの難民の方に直接お話を伺った事があるのだが、彼らの元々の職業が医者や技師などの知識層が多かったのに驚いた。しかし、それが今、日本で上手く職業に結びついていないのが実情のようで、非常に勿体ない思いを抱いた。
シンガポール然り、アメリカ(先程は反対の例で取り上げたが)のシリコンバレー然り、エリート層を受け入れ、彼らの力を十二分に活用し、イノベーションを起こしているところからも見てとれるように、他の先進国が既にやっていることを日本でも活かさない理由はない。ただ、島国の中で生きてきた日本人に組み込まれた異質排除のDNAや、既得権益層の反対を考えると、そう簡単に物事が進むとは思えない。しかし、そんな悠長なことは言っていられないのも事実。そのために、やはり日本の国、または企業のリーダーたちには、長期的なビジョンに立っての方向性を示し、それに乗っ取ったリーダーシップを発揮して頂きたいと思う。国民一人一人も真剣に自分たちの国の将来を考える時が来ているのではないか。
出生率についても書きたいのだが、余りにも長くなったので、次回以降に書かせて頂きたい。